市販のドッグフードではなく、自分で作ったごはんを愛犬に食べさせたい。そう思って台所に立つと、「肉と野菜を煮ればいいの?」「何をどれだけ入れれば足りるの?」と手が止まる方は多いはずです。人のごはんなら感覚で作れても、犬の体が必要とするものは人と違うので、同じ感覚では組み立てられません。
先に結論を言うと、犬の手作りごはんは「作る」こと自体は難しくありませんが、「栄養を足りさせる」ことが難しい食事です。総合栄養食は、そのフードと水だけで健康を維持できるよう試験で証明された区分ですが、家庭で作るごはんにはその証明がありません。環境省のガイドラインも、手作りの食事を与えているときは栄養素の不足が起こりやすいため、栄養成分を計算した上で与えるよう呼びかけています。
この記事では、総合栄養食との違い、不足しやすい栄養素、肉・野菜・炭水化物の組み合わせ方、与えてはいけない食材、1日の量の見積もり方、調理と保存の注意点、そしてトッピングから段階的に始める方法までを、公的資料をもとに「なぜそうなるのか」から整理していきます。
・手作りごはんと総合栄養食の違い(なぜ「証明」の有無が大事なのか)
・手作りで欠けやすい亜鉛・カルシウム・リンと、カルシウムとリンの比率の考え方
・加熱しても成分が消えないネギ類など、与えてはいけない食材
・体重×30+70から始める1日の量の見積もり方と、トッピングから始める手順
犬の手作りごはんは「総合栄養食」と何が違う?

総合栄養食は「そのフードと水だけで足りる」ことが前提の食事
手作りごはんを考えるとき、比べる相手になるのが「総合栄養食」です。総合栄養食とは、犬や猫に毎日の主要な食事として与えることを目的とし、そのペットフードと水だけで、指定された成長段階の健康を維持できるよう栄養バランスがとれた製品のことです。ペットフード協会の「ペットフードの種類」では、この定義のほかに、療法食・間食・その他の目的食という区分も示されています。
ポイントは「それだけで足りる」という前提です。つまり、飼い主が栄養の計算をしなくても、パッケージの量を守って水と一緒に与えれば、必要な栄養素がそろうように作られているということ。手作りごはんを選ぶということは、この計算を飼い主が自分で引き受けることを意味します。
やりがちなのは、「総合栄養食も手作りも、どちらも犬のごはん」と同列に考えてしまうことです。見た目や食いつきは手作りに軍配が上がることもありますが、栄養の設計図があるかどうかという点では別物です。袋の裏に「総合栄養食」と書かれているかどうかが、その設計図の有無を示す目印になります。
総合栄養食=そのフードと水だけで、指定された成長段階の健康を維持できるよう栄養バランスがとれた製品。
間食=おやつやスナック、ご褒美として限られた量を与えることを意図したもの。
その他の目的食=総合栄養食・療法食・間食のいずれにも当たらず、特定の栄養の調整やカロリーの補給、嗜好性の増進などを目的とするもの。
療法食=治療の内容に合わせて栄養成分の量や比率が調節され、治療を補助する目的で使われるフード。獣医師の指導のもとで与えるものです。
手作りごはんに「栄養の証明」がないのはなぜか
総合栄養食を名乗るには、分析試験または給与試験で栄養基準を満たすことを証明し、ペットフード公正取引協議会へ届け出る必要があります。成分を測るか、実際に犬に一定期間食べさせて健康が保たれるかを確かめるか、どちらかの裏づけがあるわけです。
一方、家庭で作る手作りごはんは市販のペットフードではないため、そもそもこの表示区分の対象外です。証明を受けていないというより、「受ける仕組みの外にある」と考えるとわかりやすいでしょう。だから、手作りごはんの栄養バランスは、飼い主が食材の選び方と量で設計することになります。
よくある失敗は、「肉も野菜もご飯も入れたから、バランスはとれているはず」と、材料の種類の多さで安心してしまうことです。種類がそろっていても、栄養素ごとの量が足りているかは別の話です。手作りを主食にするなら、食材の栄養成分を文部科学省の「日本食品標準成分表」などで確認し、足りない栄養素がないかを見ていく姿勢が欠かせません。

ホームセンターやペットショップでドッグフードの袋を手に取ると、たいていどこかに「総合栄養食」と書かれています。その一方で、見た目はよく似ているのに「一般食」「お…
実は「手作り=より安心」とは言い切れない理由
意外と知られていないけれど、「添加物が入っていない手作りのほうが、市販フードより体にいいはず」という考えは、栄養の観点では必ずしも当てはまりません。手作りの安心感は「何が入っているかがわかる」ことにありますが、「必要なものが足りているか」までは保証してくれないからです。
獣医師が執筆したペット情報メディアの記事では、自然食材を通して栄養基準を満たすことは限りなく不可能に近い、とまで指摘されています。原材料が見える安心と、栄養が満たされている安心は、別々に考える必要があるということです。
具体的には、成長期の子犬のように必要な栄養が多い時期や、体調管理が必要な時期ほど、手作りだけで組み立てる難しさは増します。だからこそ、手作りに挑戦するときは「総合栄養食をベースにして一部を手作りにする」のか、「主食まで手作りにする」のかを最初に決めておくと、迷いが減ります。前者なら栄養計算の負担は小さく、後者なら栄養成分の計算と獣医師への相談がセットになると考えてください。
手作りだけで栄養は足りる?不足しやすい3つの栄養素
犬は人よりたんぱく質を多く必要とする
手作りごはんを人の感覚で作ると、まず崩れやすいのがたんぱく質の量です。環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」には、犬は人と長い間共同生活していく中で雑食性が進んだものの、人よりもたんぱく質を多く必要とする、と書かれています。
理由は、犬の体がもともと肉を中心に食べてきた動物の性質を残しているからです。雑食になったとはいえ、人と同じ「ご飯がメインで、おかずが少し」という配分では、たんぱく質が不足しやすくなります。
やりがちなのは、かさ増しのためにご飯やいも類を多めにしてしまうケースです。見た目の量は十分でも、たんぱく質の割合が下がっていることがあります。逆に、肉ばかりにすると今度はほかの栄養素が偏ります。手作りの第一歩は「犬と人では必要な栄養の配分が違う」と頭を切り替えることです。肉や魚をどれだけ入れるかは、次の章で扱う割合の目安と、1日の必要エネルギーの計算をあわせて考えていきます。
亜鉛・カルシウム・リンが欠けやすいと言われる理由
ペット向けフードメディアの編集部(ペットフーディスト監修)の記事では、手作りごはんは「亜鉛、カルシウム、リン」が特に欠乏しやすいとされています。どれも骨や皮膚、体の働きを支えるミネラルです。
欠けやすい理由は、ふだん家庭で使う食材だけでは、これらを必要な量まで入れにくいからです。たとえば人の食事ではカルシウムを乳製品や小魚でとることが多いですが、犬の手作りごはんでは乳製品を気軽に使えない事情もあります(牛乳の扱いは後の章で触れます)。肉と野菜を中心にしたメニューを続けると、ミネラルが静かに不足していく構造になりやすいのです。
注意したいのは、欠乏は目に見えにくく、短期間ではわかりにくい点です。「元気に食べているから大丈夫」と判断しがちですが、栄養の過不足は時間をかけて表れることがあります。主食を手作りにしている場合は、定期的な健康診断のときに食事内容を獣医師に伝え、ミネラルの補い方を相談するのが確実です。
| 項目 | 総合栄養食 | 間食・その他の目的食 | 手作りごはん |
|---|---|---|---|
| 目的 | 毎日の主要な食事 | ご褒美、特定の栄養の調整、カロリー補給、嗜好性の増進など | 飼い主が決める(主食にもトッピングにもなる) |
| 栄養バランスの裏づけ | 分析試験または給与試験で証明し、公正取引協議会に届け出 | それだけで必要な栄養がそろう前提ではない | 表示区分の対象外。飼い主が栄養成分を計算して設計 |
| 向いている使い方 | 水と一緒に主食として | 主食の補助として限られた量 | 総合栄養食へのトッピングから。主食にするなら獣医師に相談 |
カルシウムとリンは「量」より「比率」で考える
カルシウムとリンは、どちらか一方をたくさん入れればよいというものではありません。フードメディアの編集部による解説では、犬にとって理想の比率はカルシウム対リン=1対1〜2対1とされています。
比率が大事なのは、2つのミネラルが体内で互いに影響し合いながら骨や歯を支えているからです。片方が極端に多いと、もう片方の働きが相対的に足りなくなる、と考えるとイメージしやすいでしょう。量だけを見ていると、この釣り合いの崩れを見落とします。
手作りで起こりやすいのは、肉を中心にしたメニューでリンが多く、カルシウムが少ない状態です。肉にはリンが含まれている一方、カルシウムは多くないため、肉を増やすほど比率はリン側に傾きます。食材ごとのカルシウムとリンの量は、文部科学省の「日本食品標準成分表」で1つずつ確認できます。献立を決めたら、主な食材だけでも数値を拾い、比率が大きく偏っていないかを見る習慣をつけると安心です。
自然食材だけで栄養基準を満たすのが難しい理由
獣医師が執筆したペット情報メディアの記事では、手作りごはんの栄養を考える際に、AAFCO(米国飼料検査官協会)とFEDIAF(欧州ペットフード工業連合会)の基準を参考にすることが勧められています。どちらも、犬に必要な栄養素の目安を細かく定めた基準です。
難しいのは、これらの基準が多くの栄養素について目安を示しているのに対し、家庭で使える食材の組み合わせでは、すべての項目を同時に満たすのが困難だという点です。同じ記事では、自然食材を通して基準を満たすことは限りなく不可能に近い、と述べられています。ビタミンやミネラルの一部は、ふつうの食材から必要量をとろうとすると、ほかの栄養素が過剰になってしまうこともあります。
ここで早合点しやすいのが、「足りない分はサプリメントで補えばいい」という発想です。人用のサプリメントの扱いには注意が必要なので、後の章で詳しく触れます。まずは、手作りを主食にするほど栄養の設計は複雑になるという前提を持っておきましょう。
肉・野菜・炭水化物はどんな割合で組む?

割合の目安は「フードメディアの一例」として受け取る
手作りごはんのレシピでよく見かけるのが、「肉・魚類、野菜、炭水化物の割合」の目安です。あるフードメディアでは、肉・魚類1対野菜1対炭水化物0.5〜1という比率が紹介されています。別の記事では、肉魚類1対穀物いも類1対野菜類1、あるいは6対2対2といった例も挙げられています。
ここで押さえておきたいのは、これらはメディアの編集部が示した目安であり、公的な基準ではないという点です。記事によって比率が違うのは、それぞれが想定している犬の体格や活動量、使う食材が異なるためで、「どれが正解」と決まっているわけではありません。
やりがちなのは、比率だけを守れば栄養がそろうと思い込むことです。同じ「肉1」でも、鶏むね肉と豚バラ肉では脂質もカロリーも大きく違います。比率は献立の骨組みを考えるための出発点として使い、実際の栄養は食材ごとの成分表の値で確認する、という二段構えで考えると失敗しにくくなります。
1食ではなく1週間で帳尻を合わせる考え方
先ほどの比率を紹介しているフードメディアでは、割合を1食ごとに厳密に守るのではなく、1週間を通して調整する考え方が示されています。この発想は、手作りを長く続けるうえで役立ちます。
理由はシンプルで、毎食すべての栄養素をぴったりそろえるのは現実的ではないからです。今日は魚が多め、明日は肉と野菜を多め、というように日によって偏りがあっても、1週間単位で見て大きく崩れていなければよい、という考え方です。食材のローテーションができるので、特定の食材に偏り続けるリスクも減らせます。
ただし注意したいのは、「1週間で調整する」を「何を入れても後で帳尻が合う」と取り違えないことです。与えてはいけない食材はどの日も避ける必要がありますし、1日の量(エネルギー)は毎日そろえるのが基本です。1週間の献立をメモに書き出し、使った食材と量を記録しておくと、偏りに気づきやすくなります。記録は、獣医師に相談するときの資料にもなります。
肉と野菜だけで組むとカルシウムが足りなくなる
手作りごはんで起こりやすい失敗の1つが、「ヘルシーだから」と肉と野菜だけで献立を組み、ミネラルの不足に気づかないケースです。
状況:鶏むね肉とにんじん・キャベツを煮たごはんを、食いつきがよいので毎日続けている。
原因:肉にはリンが含まれる一方でカルシウムは多くないため、カルシウム対リンの比率がリン側に傾きやすい。亜鉛やカルシウムはもともと手作りで欠けやすいとされる栄養素です。
対策:主な食材のカルシウム・リンの量を成分表で確認し、比率が1対1〜2対1から大きく外れていないかを見る。補い方は自己判断で決めず、獣医師に相談してから取り入れる。
この失敗が見落とされやすいのは、犬がよく食べて元気にしている間は、不足のサインが表に出にくいからです。食いつきのよさは「おいしいかどうか」の指標であって、「栄養が足りているかどうか」の指標ではありません。
対策の基本は、献立を決める段階で「肉・野菜・炭水化物」の3つに加えて「ミネラルはどこから入っているか」を確認することです。確認のしかたがわからないうちは、総合栄養食をベースにして、手作りはトッピングにとどめるほうが安全です。
与えてはいけない食材は?加熱しても消えないネギ類の成分
ネギ類は具だけでなく煮汁やエキスまで避ける
環境省のガイドラインは、人の食べ物でも犬や猫には害を及ぼす場合があるとして、タマネギやチョコレートなどを食べさせてはいけない、としています。手作りごはんで特に注意したいのが、タマネギを代表とするネギ類です。
同ガイドラインによると、タマネギなどに含まれる成分(アリルプロピルジスルフィド)が赤血球を破壊し、大量に食べると血尿や下痢、嘔吐、発熱などを引き起こすおそれがあるとされています。そしてこの成分は加熱しても分解されません。長ネギ・ニラ・ニンニクにも同様の成分が含まれます。
手作りで見落としやすいのは、具として入れていなくても、成分が溶け出した汁を使ってしまうケースです。ガイドラインでは、ハンバーグやカレーなどタマネギが含まれる加工食品、エキスがしみ出た味噌汁や煮汁も与えないよう示されています。家族の料理と同じ鍋でスープを作ったり、人用のだしや市販のスープの素を使ったりすると、知らないうちにネギ類が入ることがあります。犬のごはんは、専用の鍋と、原材料のわかる食材だけで作るのが確実です。
| 項目 | ネギ類(タマネギ・長ネギ・ニラ・ニンニク) | チョコレート・キシリトール・ブドウ | 鶏の骨・生の魚介類 |
|---|---|---|---|
| 避けたい理由 | 成分が赤血球を破壊し、血尿・下痢・嘔吐・発熱などのおそれ。加熱しても分解されない | チョコはテオブロミンで嘔吐・下痢・けいれんなど。キシリトールは少量でも低血糖や肝不全など。ブドウは腎不全の原因に | 鶏の骨は縦に裂けやすく、のどや消化管を傷つけることがある。生のイカや貝はビタミンB1を分解する酵素をもつ |
| 手作りで見落としやすい場面 | 人用の煮汁・味噌汁・カレー・ハンバーグ、市販のスープの素 | 人用のお菓子やガムを材料にする、干しブドウ入りのパン | 骨付き肉をそのまま煮る、刺身を取り分ける |
| 手作りでの対処 | 専用の鍋で、原材料のわかる食材だけで作る | 人用の加工食品を材料にしない | 骨は外し、魚介類は必ず加熱する |
チョコレート・キシリトール・ブドウは「少量でも油断できない」
チョコレート、キシリトール、ブドウは、手作りのおやつやごはんに人用の食品を流用したときに入り込みやすい食材です。環境省のガイドラインによれば、チョコレートはテオブロミンが原因で嘔吐、下痢、発熱、けいれんの発作などを引き起こすとされています。獣医師が執筆した記事では、犬はカカオに含まれるテオブロミンの分解スピードが遅いため、中毒症状を起こす危険があると説明されています。
キシリトールについて、同ガイドラインは少量でも低血糖や中毒、肝不全などを引き起こすので与えないよう示しています。ブドウや干しブドウは犬や猫にとって腎不全の原因になり、特に皮は与えてはいけないとされています。
手作りで起こりがちなのは、「少しだけなら」「風味づけに」と人用のお菓子やシリアル、パンを材料に使ってしまうことです。キシリトールは人用のガムや菓子に使われていることがあり、干しブドウはパンやシリアルに混ざっていることがあります。手作りに人用の加工食品を使わない、というルールを決めておくのが、いちばん確実な予防になります。

鶏の骨・生の魚介類は「形」と「生」がリスクになる
毒になる成分とは別に、「形」や「生のまま」であることが問題になる食材もあります。環境省のガイドラインは、鶏の骨は縦に裂けやすく、噛んで割れると尖った形になり、のどや消化管を傷つけることがあると説明しています。
骨付き肉でスープをとる、手羽先を煮て身をほぐす、といった調理は手作りごはんでよく行われますが、そのときに骨が混ざったまま器に入ってしまうことがあります。煮込んで柔らかくなったように見えても、骨の割れ方の性質は変わらないと考えておきましょう。身を外すときは指で触って骨が残っていないか確かめると安心です。
生の魚介類については、同ガイドラインに、生のイカや貝などの魚介類や甲殻類はビタミンB1を分解する酵素を持ち、猫に与えると後肢の麻痺を引き起こすという記述があります。これは猫についての説明ですが、ガイドラインは魚介類は必ず加熱調理して与えるよう示しています。犬の手作りごはんでも、魚介類は火を通してから使うのが基本です。刺身を「新鮮だから」と取り分けるのは避けましょう。
マカダミアナッツ・アボカドと、もし食べてしまったとき
ほかにも、獣医師が執筆したペット情報メディアの記事では、マカダミアナッツは中毒症状を起こす危険があるものの、中毒成分は正確にはわかっていないこと、アボカドにはペルシンという殺菌作用のある毒素が含まれていることが紹介されています。「体によさそう」なイメージのある食材でも、犬にとっては別の話になることがあるわけです。
一覧を覚えるのが大変に感じたら、「人の料理の食材を、そのまま犬に流用しない」という考え方を持っておくと判断がぶれにくくなります。新しい食材を試すときは、使う前に1つずつ公的資料や獣医師監修の情報で確認する習慣をつけましょう。
万が一、危険な食べ物を口にしてしまったときは、できるだけ早く動物病院へ連れて行くことが勧められています。そのとき、何を・どのくらい・いつ食べたかを記録して伝えると、診察の手がかりになります。自己判断で吐かせようとしたり、様子見で時間を置いたりせず、まず動物病院に連絡するのが基本です。
1日の量はどう決める?体重×30+70の計算と理想体重
まず安静時のエネルギー要求量(RER)を出す
手作りごはんでは、袋の給与量表が使えません。そこで役立つのが、環境省のガイドラインに載っている計算式です。安静時のエネルギー要求量(RER)は、体重(kg)×30+70でキロカロリーとして求めます。この式は、体重が2〜45kgの場合に計算できるとされています。
RERは、犬がじっとしている状態で体を維持するのに必要なエネルギーの目安です。ここを出発点にして、成長段階や活動量に応じた調整を加えていきます。手作りごはんでは「何グラム与えるか」より先に「何キロカロリー必要か」を決め、それを食材のエネルギーから逆算してグラムに直す、という順番になります。食材ごとのエネルギーは、文部科学省の「日本食品標準成分表」で調べられます。
よくある失敗は、この計算を飛ばして「お茶碗半分くらい」と見た目で量を決めてしまうことです。手作りは食材や水分量によって同じ見た目でもエネルギーが大きく変わるので、見た目で決めると日によって量がぶれます。計算で出した数字をメモして、台所に貼っておくと迷いません。
係数をかけて1日の必要量(DER)にする
RERが出たら、次は1日当たりのエネルギー要求量(DER)です。環境省のガイドラインでは、DER=RER×係数で求め、この係数は成長段階や活動量によって変わるとされています。詳しくは獣医師に相談するよう示されています。
ガイドラインに載っている計算例を見てみましょう。体重5kgで避妊去勢済みの犬の場合、RERは5×30+70=220kcal。これに係数1.6をかけて、DERは352kcalとなります。この352kcalが、その犬の1日のごはん全体の目安です。
ここで注意したいのは、係数は一律ではないということです。子犬の時期、よく運動する犬、シニア期など、状態によって係数は変わります。ネットで見かけた係数をそのまま当てはめると、必要量から大きく外れることがあります。自分の犬に使う係数は、健康診断のときなどに獣医師に確認するのが確実です。また、手作りとおやつを併用している場合は、おやつのエネルギーもDERの中に含めて考えましょう。

「袋の裏の表どおりにあげているのに、体つきが少しずつ丸くなってきた」「子犬のうちは欲しがるだけ与えていいの?」――犬のご飯量は毎日のことなのに、なぜその量なのか…
計算に使う体重は「今」ではなく「理想体重」
計算で意外と間違えやすいのが、どの体重を使うかです。環境省のガイドラインは、フードの給与量が体重に対して表示されている場合、その体重とは現在の体重ではなく理想体重のことだと説明しています。手作りごはんの計算でも同じ考え方が当てはまります。
理由は、今の体重をそのまま使うと、太り気味の犬には多すぎる量、痩せ気味の犬には少なすぎる量が出てしまうからです。理想体重はボディコンディションスコア(BCS)を参考に求められ、知りたい場合は獣医師に相談するよう同ガイドラインは示しています。
また、季節や運動量によっても必要なエネルギーは変わります。ガイドラインでは、定期的に体重を量り、食事量を見直すことが勧められています。量るときは、はかり(ない場合は計量カップ)で重さを確認します。手作りは食材によって重さと体積の関係がばらつくので、できればキッチンスケールで量るほうが正確です。体重と食事量を同じノートに記録しておくと、変化に早く気づけます。
1日1回ではなく、数回に分けて与える理由
量が決まったら、与え方も考えておきましょう。環境省のガイドラインによれば、犬は1回で1日分を食べられるほど大きな胃を持っています。そのため1日1回にすると、慌てて飲み込んでのどに詰まらせたり、肥満の原因になったりすることがあるとされ、1日分を数回に分けて与えるよう示されています。
手作りごはんは香りが立ちやすく、食いつきがよくなる傾向があります。そのぶん勢いよく食べてしまう犬もいるので、1回の量を小さくして回数を分ける意味は大きくなります。1日の総量はDERで決め、それを朝晩などに分けて出す、という流れにすると管理しやすくなります。
やりがちなのは、朝はドライフード、夜は手作り、というように回ごとに内容を変えたとき、それぞれの量をなんとなく決めてしまうことです。1日の合計でDERに収まっているかを確認するために、朝の分と夜の分のエネルギーを書き出して足し算してみてください。合計が必要量から外れていないかを見るだけでも、食べすぎや不足を防ぎやすくなります。
調理と保存で気をつけることは?生肉・味付け・食べ残し
生肉・生魚は加熱して使うのが基本
手作りごはんの話題では、生肉を与える食事法が紹介されることもあります。しかし、生肉には病原体に感染するリスクがあるとされています。犬だけでなく、調理する人の手や台所を通じて家族にも影響が及ぶ可能性があるので、加熱して使うのが基本と考えましょう。
獣医師が執筆したペット情報メディアの記事でも、生の大豆、生のイカ・アサリ、生のほうれん草、生魚、生肉など、調理方法に注意が必要な食材が挙げられています。前の章で触れた魚介類の加熱も含め、「手作り=素材のまま」ではなく、「犬にとって安全な状態にしてから使う」という意識が大切です。
調理の段階では、肉を切ったまな板や包丁をそのまま野菜に使わない、加熱後に中心まで火が通っているか確かめる、といった人の料理と同じ衛生管理が役立ちます。犬の器もごはんのたびに洗い、前の食事の残りが器についたままにならないようにしましょう。器の素材や洗いやすさについては、食器選びの記事でも詳しく解説しています。
味付けはせず、人の料理から取り分けない
手作りごはんで起こりやすい2つめの失敗が、「家族の夕食を少し取り分ければ手間が省ける」という発想です。
状況:家族用の肉じゃがや野菜炒めを作る途中で、犬の分を取り分けている。
原因:取り分けたタイミングですでにタマネギと一緒に炒めていたり、だしや調味料の汁を吸っていたりする。環境省のガイドラインは、人が味付けをした食事や総菜、ハムなどを与えると塩分摂取量が過剰になることがあるとしています。
対策:犬のごはんは最初から別の鍋で、調味料を使わずに作る。人の料理から取り分けるなら、ネギ類や調味料に触れる前の段階の食材だけにする。
塩分が問題になる理由について、同ガイドラインは、塩分の摂取過剰は人と同様に心臓や腎臓に負担をかけてしまうと説明しています。人にとってちょうどよい味付けでも、体の小さな犬にとっては塩分が多くなりがちです。
ハムやソーセージ、ちくわなどの加工食品は、材料として便利に見えても塩分を含んでいます。チーズを与える場合も、ガイドラインでは犬猫専用のものを与えるよう示されています。「素材そのものの味で十分」と割り切るのが、手作りごはんを長く続けるコツです。
作ったら置きっぱなしにせず、保存日数は決めつけない
環境省のガイドラインは、水分の多いウェットフードや手作りフードなどは品質の低下が早いため、そのまま置きっぱなしにせず、食べ残しはすぐに片付けるよう示しています。手作りごはんはドライフードのように乾燥させていないので、水分が多いぶん傷みやすいと考えておきましょう。
作り置きについては、冷蔵で何日、冷凍で何日といった目安がネット上で紹介されていることがあります。ただ、手作りごはんの冷蔵・冷凍の日数について、公的資料で具体的な数値を確認することはできませんでした。食材や調理法、冷蔵庫の状態によって傷み方は変わるため、日数を数字で決めつけるより、「作ったら早めに使い切る」「においや見た目に違和感があれば与えない」を基本にするのが安全です。
やりがちなのは、食べ残しを「次の食事でまた出せばいい」と器に入れたままにしておくことです。室温に置いた手作りごはんは、時間とともに品質が落ちていきます。食べ残しはその場で片付け、次の食事では新しく用意したものを出しましょう。作り置きをするなら、1回分ずつ小分けにして、出す分だけ取り出す形にすると、何度も温度変化にさらさずに済みます。
牛乳や人用サプリメントを「足す」前に考えたいこと
手作りごはんの栄養を補おうとして、牛乳やサプリメントを足すことを考える方もいるでしょう。まず牛乳について、環境省のガイドラインは、成犬に乳糖を多く含む牛乳を与えると、乳糖をうまく消化吸収できずに下痢を起こすことがあると説明しています。「カルシウムが欠けやすいなら牛乳を」という発想は、犬にはそのまま当てはまりません。
サプリメントについても注意が必要です。同ガイドラインは、人用のサプリメントは人に安全性が確認されていても、犬や猫には毒性を示すものがあるとして、犬で安全性が確認されているものを与えるよう示しています。さらに、複数の健康補助食品を使うと悪影響が出ることがあるため、獣医師に相談するよう呼びかけています。
ここで大事なのは、「足りないから何かを足す」を自己判断で重ねないことです。栄養素は多すぎても問題になるものがあり、足し算を繰り返すほど全体のバランスは見えにくくなります。補い方は、献立の内容を記録したうえで獣医師に相談して決めるのが近道です。

犬の手作りごはんはどう始める?トッピングから段階的に
いきなり全部を手作りにしない理由
手作りごはんを始めるとき、今日からすべて手作りに切り替えたくなる気持ちはわかります。ですが、急に食べ物が変わると体が対応できずに下痢になることがあるとされ、少量から段階的に移すことが勧められています。
理由は、犬の消化の働きが、ふだん食べているものに合わせて落ち着いているからです。原材料や水分量、脂質の量が大きく変わると、その変化にお腹が追いつかないことがあります。ドライフード中心の食事から水分の多い手作りごはんへ一気に移ると、変化の幅が大きくなりやすいのです。
もう1つの理由は、栄養設計の難しさです。ここまで見てきたように、手作りだけで栄養を満たすのは簡単ではありません。まずは総合栄養食をベースにして、その上に手作りの食材を少しのせる「トッピング」から始めれば、栄養の土台は総合栄養食が支えてくれます。手作りの割合を増やすかどうかは、トッピングで犬の様子を見て、獣医師にも相談してから決めても遅くありません。
トッピングから始める手順
トッピングから始める流れを、手順として整理しておきます。どのステップでも、1日のエネルギーがDERを超えないように、ベースのフードを減らして調整するのがポイントです。
食材を1種類ずつ増やすのは、もし体に合わない食材があったとき、どれが原因かを見分けやすくするためです。一度に何種類も加えると、様子が変わったときに原因がたどれません。
トッピングの食材は、加熱した鶏むね肉やかぼちゃなど、この記事で見た「与えてはいけない食材」に当てはまらないものから選びます。味付けはせず、犬が食べやすい大きさに切り、魚介類は必ず加熱してから使いましょう。
飼い主のタイプ別・手作りごはんとの付き合い方
手作りごはんとの付き合い方は、飼い主の暮らし方や目的によって変わります。どれが正しいというより、自分に合った形を選ぶことが長続きのコツです。
平日は忙しく、手作りは週末だけにしたい方:総合栄養食を主食にし、週末にトッピングとして手作りの食材をのせる形が向いています。栄養計算の負担が小さく、続けやすい方法です。
食いつきが落ちてきて、香りで食欲を引き出したい方:加熱した肉や野菜を少量のせるトッピングから試します。食いつきの変化が続くときは、食事以外の原因も含めて獣医師に相談を。
主食まで手作りにしたい方:食材ごとの栄養成分を計算し、不足しやすい亜鉛・カルシウム・リンの補い方を獣医師と相談しながら進める前提で取り組みましょう。
持病があり、療法食を使っている方:療法食は獣医師の指導のもとで与えるものです。手作りの食材を加える前に、必ず獣医師に確認してください。
どのタイプでも共通するのは、「1日の量はDERで決める」「与えてはいけない食材は使わない」「味付けはしない」の3つです。この土台さえ守れば、手作りの割合は犬の様子と暮らしに合わせて調整していけます。
獣医師に相談したいタイミング
手作りごはんを続けていくうえで、獣医師に相談したいタイミングはいくつかあります。まず、主食まで手作りにしたいと考えたとき。栄養成分の計算や、不足しやすいミネラルの補い方は、飼い主ひとりで判断しにくい部分です。献立の記録を持って相談すると、具体的な助言を受けやすくなります。
次に、計算に使う係数や理想体重がわからないとき。環境省のガイドラインでも、係数や理想体重については獣医師に相談するよう示されています。健康診断のついでに確認しておくと、その後の量の見直しがスムーズになります。
そして、食事を変えたあとに体調の変化が見られたときです。食欲や便の様子がいつもと違うときは獣医師に相談を。手作りの食材が関係していそうな場合は、何をいつから、どのくらい与えたかを伝えると判断の手がかりになります。手作りを始めたころの記録が、ここでも役に立ちます。

いつものドライフードを残すようになった。硬い粒を噛むのがつらそうに見える。そんなとき「手作りご飯なら食べてくれるかも」と考える飼い主さんは少なくありません。ただ…
まとめ
犬の手作りごはんは、食材が見える安心感や、香りで食欲を引き出しやすいといった魅力がある一方で、栄養の設計を飼い主が引き受ける食事です。総合栄養食が試験で栄養基準を満たすと証明されているのに対し、手作りにはその裏づけがありません。環境省のガイドラインが、手作りの食事では栄養成分を計算した上で与えるよう呼びかけているのも、この違いがあるからです。
だからこそ、最初の一歩はトッピングがおすすめです。総合栄養食をベースにして、加熱した肉や野菜を味付けなしで少しだけのせ、その分フードを減らす。1日の量は理想体重をもとに体重×30+70でRERを出し、係数をかけたDERで決めます。ネギ類やチョコレート、キシリトール、ブドウ、鶏の骨などの避けたい食材は使わず、人の料理からの取り分けもやめておきましょう。作ったごはんは置きっぱなしにせず、食べ残しはすぐ片付けます。
そのうえで手作りの割合を増やしたくなったら、使った食材と量の記録を持って獣医師に相談してください。今日できることは、まず愛犬の理想体重を確認し、1日の必要エネルギーを計算してメモすることです。その数字が、手作りごはんを安全に続けるための物差しになります。
※最新情報は公式サイトでご確認ください。

コメント