「さっき目を離したすきに、お皿のハムを1枚くわえていった。大丈夫かな」「手作りごはんに少しだけ塩で味をつけたら、もっと喜んで食べるかも」。犬の塩分は、気にしすぎても気にしなさすぎても迷いやすいテーマです。人の舌で「ほんの少し」と感じる量でも、体の小さな犬にとっては1日の目安を超えてしまうことがあります。
先に結論をお伝えします。塩分(ナトリウム)は犬にとっても欠かせない栄養素ですが、総合栄養食を新鮮な水と一緒に食べていれば足りるように作られています。気をつけたいのは「足りないこと」ではなく、人が味付けした料理やハム・チーズなどから塩分を「上乗せ」してしまうことです。環境省の「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」では、体重5kgの犬(避妊去勢済み)の1日の塩分摂取量の目安を0.18gとしています。
この記事では、0.18gという数字の読み方、身近な食べ物10gあたりの食塩量、摂りすぎたときに体で起きること、塩辛いものを誤食したときの動き方、手作りごはんやおやつで塩を増やさないコツまでを、公的機関や海外の専門団体の情報をもとに順番に説明します。
・犬に塩分が必要な理由と、総合栄養食で足りるしくみ
・体重5kgで1日0.18gという目安の正しい読み方
・ハム・チーズ・しらす干しなど10gあたりの食塩量の比較
・塩分の摂りすぎ・塩中毒のサインと、誤食したときの動き方
犬に塩分はいらない?ナトリウムが体で担う役割

塩は「悪者」ではなく、体液と神経を支える栄養素
まず押さえておきたいのは、塩分は犬にとっても必要な栄養素だということです。塩(塩化ナトリウム)は体の中で電解質として働き、体液のバランスを保ったり、筋肉や神経がきちんと動くのを支えたりしています。米国ケネルクラブ(AKC)の解説でも、塩は電解質として犬の健康に欠かせない要素で、体液のバランスや筋肉・神経の働きに関わると説明されています。
ここで混乱しやすいのが、人の健康情報で「減塩」という言葉に慣れていることです。人向けの話では塩分は控えるもの、という印象が強いので、犬にも「塩はできるだけゼロに」と考える飼い主さんが少なくありません。けれど、体がナトリウムを必要としているのは人も犬も同じです。問題になるのは量であって、塩そのものではありません。
やりがちなのは、「塩は体に悪いから」と、ドッグフードの原材料欄に「食塩」の文字を見つけただけで不安になってしまうケースです。総合栄養食に食塩が入っているのは、必要な量を満たすための設計の一部と考えると読み違えません。
パッケージを見るときは、「食塩が入っているかどうか」より「そのフードが総合栄養食かどうか」を先に確認するのがコツです。表示区分が総合栄養食であれば、塩分を含む栄養バランスが整えられた主食として作られています。
ナトリウム・塩素=食塩(塩化ナトリウム)を構成するミネラル。栄養基準ではそれぞれ別の項目として扱われます。
食塩量と塩分量=この記事で引用する環境省の資料は「食塩量」「塩分摂取量」をグラムで示しています。一方、フードの成分表示やAAFCOの基準は「ナトリウム」で示されることが多く、同じ数字ではないので、ナトリウムの値と食塩の値をそのまま並べて比べないようにしましょう。
主食の袋に「ナトリウム」の欄がある理由
結論から言うと、ドッグフードの世界では塩分は「不足させないように最低量を決めておく栄養素」として扱われています。日本のペットフードの栄養基準でよく参照される米国のAAFCO(米国飼料検査官協会)の栄養基準には、ナトリウムと塩素の項目があり、成長期と成犬維持期それぞれに最小値が設けられています。
理由はシンプルで、肉や穀物などの原材料だけでは、ナトリウムや塩素の量がフードごとにばらつくからです。総合栄養食は「そのフードと水だけで必要な栄養がまかなえる」ことが前提なので、必要量を下回らないように配合が調整されます。原材料欄に食塩が書かれていたり、保証成分値の近くにナトリウムの数値が書かれていたりするのはこのためです。
ありがちな勘違いは、「ナトリウムの数値が書いてあるフード=塩分が多いフード」と受け取ることです。数値を表示しているかどうかはメーカーの表示方針による部分もあり、書いてあるから多い、書いていないから少ないとは言えません。
気になる場合は、数値の大小で一喜一憂するより、メーカーの公式サイトやお客様窓口で、ナトリウムの値がどの基準(乾物量か、そのままの重量か)で示されているかを確認すると比べやすくなります。
実は「塩分ゼロ」を目指すほうが遠回りになることも
意外と知られていないけれど、塩分について飼い主さんがやるべきことは「減らす工夫を足すこと」ではなく、「余計に足さないこと」です。総合栄養食を主食にしている犬なら、主食の段階で必要な塩分は確保されています。そこに減塩の工夫を重ねる必要は基本的にありません。
なぜこの視点が大事かというと、「塩分ゼロ」を目指しはじめると、手作りごはんに切り替えたり、主食を薄めたりといった方向に進みやすいからです。総合栄養食を手作りの食材で置き換えると、塩分だけでなく、ほかのミネラルやビタミンのバランスまで飼い主さんが自分で管理することになります。結果として、塩分以外の栄養が偏ってしまうことがあります。
よくある流れは、健康のためにと始めた「無塩の手作りトッピング」が少しずつ増え、主食の量が減っていくパターンです。塩分は控えめになっても、主食で取れていた栄養まで減ってしまっては本末転倒です。
コツは、守るべき線を「人の味付け料理を与えない」「塩辛い食品を与えない」の2点に絞ることです。主食はそのまま、上乗せを減らす。この考え方だけで、塩分の悩みの大半は整理できます。
1日の目安は体重5kgで0.18g——この数字の正しい読み方
0.18gは「体重5kg・避妊去勢済み」という条件つきの数字
環境省の「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」(2018年改訂の現行版)では、体重5kgの犬(避妊去勢済み)の1日の塩分摂取量の目安を0.18gと示しています。参考として、同じ条件の猫は0.33gです。出典にはAAFCOの資料(AAFCO Official Publication 2016)が挙げられ、体重5kgの犬猫の1日あたりのエネルギー要求量をもとに算出したと注記されています。
この数字を読むときに大事なのは、「体重5kg」「避妊去勢済み」という条件がついている点です。目安はエネルギー要求量から計算されているので、体の大きさや活動量、年齢によって変わる性質のものです。つまり、どの犬にも共通する一律の上限ではありません。
やりがちな失敗は、0.18gを「これを超えたら危険なライン」と受け取ってしまうことです。資料はあくまで、普段の食事で摂る塩分のおおよその量を示しているもので、少し超えたら即座に体調を崩す境目として示されたものではありません。逆に、「0.18gまでは人の食べ物で足してもいい」という意味でもありません。主食の時点で必要量はまかなわれているからです。
この数字は「人の感覚と犬の必要量は桁が違う」ことを実感するための物差しとして使うのがおすすめです。資料の原文は環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」で確認できます。
0.18gは体重5kg・避妊去勢済みの犬を想定した「1日の塩分摂取量の目安」です。上限値でも、人の食べ物で足してよい枠でもありません。総合栄養食を食べていれば必要な塩分はまかなえるので、飼い主さんが気をつけるのは「上乗せしないこと」です。
AAFCOの基準は「最小値」——上限が書かれていない意味
AAFCOの犬の栄養基準(ここでは2013年版のプロフィールを参照)を見ると、ナトリウムと塩素には成長期・繁殖期と成犬維持期のそれぞれに最小値が設けられています。乾物量あたりで、ナトリウムは成長期・繁殖期0.3%、成犬維持期0.08%、塩素は成長期・繁殖期0.45%、成犬維持期0.12%です。表にあるのは最小値の列だけで、上限値の記載はありません。
| 項目 | 成長期・繁殖期 | 成犬維持期 |
|---|---|---|
| ナトリウム | 0.3% | 0.08% |
| 塩素 | 0.45% | 0.12% |
| 基準の性格 | いずれも最小値。表に上限値の記載はない | |
最小値しかないのは、「塩分は不足させてはいけない栄養素」という位置づけだからです。上限が書かれていないからといって、多ければ多いほどよいという意味ではありません。主食として設計された総合栄養食の範囲で考えた基準だと読むのが自然です。
ここでよくある誤解が、「成長期の数値が高いから、子犬には塩を足したほうがいい」という読み方です。成長期用・全年齢対応の総合栄養食は、この基準を満たすように作られているので、飼い主さんが別に足す必要はありません。
数値の原典はAAFCOの公開資料(Pet Food Report 2013 Appendix A)で確認できます。版によって数値が改訂される場合があるので、引用するときは版も一緒に確認しましょう。
ドライフード10gで0.018g——主食で塩が足りるしくみ
環境省の同じ資料には、参考としてドッグフード(ドライタイプ)10gあたりの食塩量0.018gという値も載っています。体重5kgの犬の1日の目安0.18gと比べると、ちょうど10分の1です。主食のドライフードは、人の食べ物と比べると塩分が控えめに作られていることがわかります。
なぜ主食だけで足りるのかというと、総合栄養食はその犬が1日に必要なエネルギー量を食べたときに、必要な栄養素がそろうように配合されているからです。パッケージの給餌量表どおりに与えていれば、ナトリウムも必要な範囲に収まるように設計されています。
気をつけたいのは、この「10gで0.018g」という数字を、手作りごはんの塩加減の参考にしてしまうことです。ドライフードは水分が少なく、重さあたりの栄養が濃い食べ物です。水分の多い手作りの食材と重さで比べても意味のある比較になりません。
主食の量そのものは、製品パッケージの給餌量表を確認して決めるのが基本です。給餌量を守っていれば、塩分について飼い主さんが計算する場面はほとんどありません。計算が必要になるのは、主食以外のものを与えたとき、つまり上乗せの部分だけです。
ハム10gで目安超え?人の食べ物に潜む塩分の量

ロースハム・チーズ:小さな一切れで1日の目安に届く
人の食べ物を犬に分けるときに一番差が出やすいのが、ハムやチーズなどの加工食品です。環境省のガイドラインに載っている「塩分の多い食べ物の例」では、10gあたりの食塩量がロースハム0.25g、ウインナー0.19g、ベーコン0.20g、プロセスチーズ0.28gと示されています。体重5kgの犬の1日の目安0.18gと比べると、どれも10gで目安を上回ります。
理由は、これらの食品が保存性と味のために塩を使って作られているからです。人が食べる分には一切れの塩分は気になりにくくても、体の小さな犬にとっては、たった一切れで1日分を超える量になります。
やりがちなのは、「ごほうびだから」「ほんのひとかけらだから」と、ハムやチーズを小さくちぎって何度も与えるパターンです。一回あたりは少量でも、回数が重なれば合計の塩分は積み上がります。トレーニングのごほうびのように回数が多い場面ほど、知らないうちに量が増えます。
環境省の資料でも、人が味付けをしている食事や総菜、ハムなどを与えると塩分摂取量が過剰になることがある、とされています。ごほうびには、間食として作られた犬用のおやつを使うのが確実です。
| 食品 | 10gあたりの食塩量 | 目安0.18gと比べると |
|---|---|---|
| しらす干し | 0.54g | 目安の3倍 |
| プロセスチーズ | 0.28g | 10gで目安を上回る |
| ロースハム | 0.25g | 10gで目安を上回る |
| かつおぶし | 0.24g | 10gで目安を上回る |
| ベーコン | 0.20g | 10gで目安を上回る |
| ウインナー | 0.19g | 10gで目安を上回る |
| 塩シャケ | 0.18g | 10gで目安と同じ |
| さつま揚げ | 0.17g | 10gで目安に迫る |
| ハンペン | 0.15g | 10gで目安に迫る |
| 食パン | 0.13g | 10gで目安に迫る |
| (参考)ドッグフード ドライ | 0.018g | 目安の10分の1 |
食塩量は環境省「飼い主のためのペットフード・ガイドライン」(2018年改訂版)の「塩分の多い食べ物の例」より。比較は同資料の数値どうしを並べたもの。
しらす干し・かつおぶし:魚の乾物は塩がまとまりやすい
表の中で目を引くのが、しらす干しの10gあたり0.54gです。体重5kgの犬の1日の目安0.18gの3倍にあたります。かつおぶしも10gあたり0.24gで、目安を上回ります。魚は「ヘルシーな食材」というイメージが強いので、犬にも安心と思われがちですが、乾物や塩蔵品になると話が変わります。
理由は、乾物は水分が抜けて重さあたりの成分が濃くなっていることと、しらす干しのように製造の過程で塩水を使う食品があることです。見た目が小さくて軽いぶん、「ひとつまみくらいなら」と量を多めに見積もってしまいがちです。
よくあるのは、食いつきをよくしようとして、ドライフードにかつおぶしやしらすを「ふりかけ」のように毎食かけるパターンです。一回分は少しでも、毎日続けると塩分の上乗せが習慣になります。また環境省の資料では、煮干しや海苔は、マグネシウムの過剰が要因となって尿路疾患を引き起こすことがあるとして、注意が必要な食べ物に挙げられています。塩分とは別の理由でも量に気をつけたい食材です。
かつおぶしを使いたい場合は、量と頻度を決めてから使いましょう。詳しい選び方と体重別の考え方はこちらで解説しています。

味付けした料理・総菜:塩以外の理由でも避けたい
ハムやチーズ以上に注意したいのが、人のために味付けをした料理や総菜です。環境省のガイドラインでも、人が味付けをしている食事や総菜を与えると塩分摂取量が過剰になることがあると書かれています。醤油・味噌・塩・だしで味を整えた料理は、人の舌でちょうどよい濃さに作られているので、犬にとっては塩分が多くなりやすいのです。
さらに見落としやすいのは、料理には塩分以外にも犬に与えてはいけない食材が溶け込んでいる場合があることです。同じガイドラインでは、タマネギ・ネギ・ニラ・ニンニクは与えてはいけない食べ物とされ、ハンバーグやカレー、エキスがしみ出た味噌汁やすきやきの煮汁なども与えてはいけないと書かれています。具を取り除いても、汁に成分が残っているという点が大事です。
ありがちなのは、「お肉の部分だけ」「ご飯に汁を少しかけただけ」と、取り分けたつもりで与えてしまうケースです。塩分も、タマネギ類の成分も、汁やソースに出ています。
コツはシンプルで、犬の分は味付けする前に取り分けることです。それができない料理は、犬には与えないと決めておくと家族のあいだでも迷いがなくなります。
状況:トレーニング中、手元にあったハムやプロセスチーズを小さくちぎって、成功するたびに一片ずつ与えていた。
原因:一片が小さくても、ロースハムは10gで0.25g、プロセスチーズは10gで0.28gの食塩を含みます。回数が重なると、体重5kgの犬の1日の目安0.18gを簡単に超えます。
対策:ごほうびは犬用のおやつ(間食)に切り替え、1日分の量を最初に小皿へ取り分けてから使いましょう。チーズを使いたいなら、環境省の資料にあるとおり犬猫専用のものを選びます。
摂りすぎると何が起きる?心臓・腎臓への負担と塩中毒
少しずつの上乗せが、心臓と腎臓に負担をかける理由
塩分の摂りすぎには、大きく分けて「毎日の積み重ね」と「一度に大量」の2つの問題があります。まず毎日の積み重ねについて、環境省のガイドラインでは、塩分の摂取過剰は人と同様に心臓や腎臓に負担をかけてしまうことになる、とされています。
なぜ心臓や腎臓なのかというと、体は血液中のナトリウム濃度を一定に保とうとして、水分を引き込んだり、余分なナトリウムを尿として出したりするからです。塩分が多い状態が続くと、血液の量や血圧に影響が出たり、ナトリウムを排出する腎臓の仕事が増えたりします。塩分の摂りすぎは血圧を上げ、心臓病の徴候を悪化させるおそれがあるともされています。
具体的に差が出やすいのは、毎日の食事に家族の誰かが人の食べ物を少しずつ足している家庭です。一人ひとりは「ちょっとだけ」のつもりでも、家族全員がそれぞれ与えていると、合計では大きな上乗せになります。
対策は、「人の食べ物は与えない」というルールを家族全員で共有することです。誰が何を与えたか把握できない状態が、塩分の積み重ねを生む一番の原因になります。
塩中毒は「一度に大量」で起こる——体重1kgあたり2〜3gという報告
もうひとつの問題が、一度に大量の塩を摂ったときに起こる塩中毒(食塩中毒)です。AKCの解説によると、塩中毒は犬が体重1kgあたり塩化ナトリウム2〜3gほどを食べたときに起こりうるとされています。日常の食事で起こる塩分の摂りすぎとは、量の桁が違う話です。
同じ解説では、塩分の多い食べ物を適度に与える程度では塩中毒は起こらないとされています。つまり、ハムを1枚食べてしまったからといって、すぐに中毒を心配しすぎる必要はありません。一方で、それは「少しなら与えてもいい」という意味ではなく、前の項目で説明した心臓や腎臓への積み重ねの問題は別に残ります。
混同しやすいのは、「塩中毒にならないなら問題ない」という考え方です。中毒になるかどうかと、体に負担をかけているかどうかは、別々に考える必要があります。
覚えておきたいのは、体が小さい犬ほど、同じ量の塩でも体重あたりの量が多くなることです。小型犬や子犬では、人にとっては少量に見える塩でも、体重あたりでは大きな量になりえます。誤食に気づいたときは、何をどれくらい食べたかを把握して、獣医師に相談してください。
家の中にある意外な原因:海水・手作り粘土・岩塩
塩中毒の原因は、人の食べ物だけではありません。AKCの解説では、塩中毒の主な原因として、海水、手作り粘土、ペイントボール、岩塩、浣腸液、食卓塩、醤油が挙げられています。食べ物として意識していないものが含まれている点が大事です。
たとえば小麦粉と塩で作る手作り粘土は、子どもの工作でよく使われますが、塩が多く含まれていて、においにつられて犬が口にすることがあります。冬場の凍結対策に使う塩や、料理用の岩塩、醤油の入った容器も、置き場所によっては犬の届く範囲に入ります。
海辺での散歩や海遊びも見落とされがちです。のどが渇いた状態で海水を飲んでしまう、波打ち際で遊びながら少しずつ口に入る、といった場面が考えられます。
対策としては、粘土や調味料は犬が届かない高さや扉つきの収納にしまうこと、海に行くときは飲み水を持参してこまめに飲ませることが基本です。犬の目線の高さで部屋を見回して、塩を含むものが置かれていないかを一度確認してみると、思わぬ見落としに気づけます。
見逃したくないサイン:吐く・ふらつく・水をがぶ飲み
塩中毒のときに見られる症状として、AKCや米国の動物中毒相談窓口(Pet Poison Helpline)の解説では、嘔吐、下痢、食欲低下、元気消失、ふらつき、多飲多尿、震え、けいれんが挙げられ、重い場合は昏睡に至ることもあるとされています。
なぜ水をたくさん飲んだり尿が増えたりするのかというと、体が濃くなったナトリウムを薄めて外に出そうとするからです。塩辛いものを食べたあとにのどが渇くのは人も同じですが、犬の場合はそれが症状のひとつとして現れることがあります。
見逃しやすいのは、「いつもより水を飲んでいる」「なんとなく元気がない」といった、ぱっと見では深刻に見えない変化です。嘔吐や下痢も、ほかの原因と区別がつきにくい症状です。
塩辛いものや塩を含むものを口にした可能性があって、こうした様子が見られるときは、様子見をせず早めに獣医師へ連絡してください。症状の詳しい一覧はPet Poison Helplineの解説ページ(英語)でも確認できます。
塩辛いものを食べてしまった!慌てずに確認したい順番
まず「何を・どれくらい・いつ」を把握する
誤食に気づいたとき、最初にやることは、犬に何かを飲ませたり吐かせようとしたりすることではなく、状況を把握することです。何を食べたのか、どれくらいの量だったのか、どのくらい前のことなのか。この3つが、獣医師が判断するための基本の情報になります。
なぜこれが大事かというと、同じ「塩辛いもの」でも、ハム1枚と調味料の容器を倒して舐めたのとでは、口にした塩の量がまったく違うからです。さらに、料理の場合は塩分以外に、タマネギやニンニクなど別の理由で注意が必要な食材が入っていることもあります。何を食べたかによって、相談の緊急度が変わります。
慌てているときにありがちなのは、包装や残りをすぐに捨ててしまうことです。パッケージの原材料表示や、残っている量は、獣医師に伝える大事な手がかりになります。
コツは、食べたものの袋や容器を手元に残し、残量を確認してから電話をかけることです。犬の体重も一緒に伝えられるようにしておくと、話がスムーズに進みます。
新鮮な水が飲める状態にしておく意味
誤食に気づいたら、まず新鮮な水をいつでも飲める状態にしておきましょう。AKCの解説では、犬は水をたくさん飲めれば、比較的高い塩分でも体の外に流し出すことができるとされています。反対に、新鮮な水がない、あるいは水を飲める場所に行けない状況では、リスクが高くなると説明されています。
理由は、体が余分なナトリウムを尿として出すためには水が必要だからです。体の中の水分が足りない状態だと、ナトリウムの濃度が下がりにくくなります。塩分の問題は、塩の量だけでなく、水を飲めるかどうかとセットで考える必要があるのです。
見落としがちなのは、水入れが空になっていたり、ケージの中で水が倒れていたりするケースです。留守番中や、夜間、移動中の車内では、気づかないうちに水が飲めない状態になっていることがあります。
注意したいのは、水を飲ませることは「処置」ではないという点です。水を無理に飲ませたり、大量に与えたりするのではなく、犬が自分で飲めるように用意しておくことが目的です。それでも様子がおかしいときは、迷わず獣医師に相談してください。
動物病院ではどんな対応になるのか
塩中毒が疑われて受診した場合、Pet Poison Helplineの解説によると、獣医師は脱水に対処するために点滴と電解質を投与し、重い場合は入院してより手厚い治療と経過観察が必要になることがあるとされています。家庭で対応しきれない理由がここにあります。
なぜ病院での対応が必要かというと、体の中のナトリウムのバランスは、急に変えても体に負担がかかるからです。濃度を調整するには、血液の状態を見ながら少しずつ進める必要があり、これは家庭ではできません。
飼い主さんがやりがちなのは、「様子を見て元気そうだから」と受診を先延ばしにすることです。症状が後から出てくることもあるため、食べたものと量によっては、症状がなくても早めに相談したほうがよい場合があります。その判断も獣医師に任せるのが安全です。
夜間や休日に備えて、かかりつけの動物病院の連絡先と、近くの夜間救急の連絡先を確認しておくと安心です。米国には動物の中毒相談窓口がありますが、日本で相談するときは、まずかかりつけの獣医師に連絡するのが基本です。
手作りごはん・トッピング・おやつで塩を増やさないコツ
手作りごはんは「味付けなし」が出発点
手作りごはんやトッピングで塩分を増やさない一番の方法は、最初から味付けをしないことです。肉や野菜、魚などの食材そのものにも、もともとナトリウムは含まれています。犬用に作るときは、そこに塩や調味料を加える必要はありません。
理由は、犬は人ほど塩味を必要としていないからです。人の料理で味付けをするのは、人の舌でおいしく感じるためです。犬の食事で大事なのは、食材の香りや温度です。茹でたての鶏肉の香りがあれば、塩を足さなくても十分に関心を示すことが多いものです。
具体的な失敗例は、家族の夕食の材料を流用して、下味のついた肉や、調味液に漬けた魚を犬用に使ってしまうことです。下味は見た目にはわかりにくいので、取り分けたつもりでも塩分が入っています。
コツは、犬用の食材は下味をつける前の段階で分けておくことです。冷凍保存するなら、犬用の分を小分けにして別の袋に入れ、「犬用・味付けなし」と書いておくと家族も迷いません。トッピングはあくまで主食に添えるものなので、主食の総合栄養食を減らしすぎないように量も決めておきましょう。
茹で汁・スープは人用と取り分けない
トッピングとして人気の茹で汁やスープは、作り方によっては塩分の上乗せになりやすいポイントです。犬用に一から作った味付けなしの茹で汁であれば問題になりにくいですが、人の料理の途中で出た汁を流用するのは避けましょう。
理由は、人の料理の汁には、だし・塩・醤油・コンソメなどの味付けが溶け込んでいることが多いからです。さらに環境省のガイドラインでは、エキスがしみ出た味噌汁やすきやきの煮汁なども与えてはいけないとされています。タマネギ・ネギ類を一緒に煮た汁は、塩分とは別の理由で与えてはいけない食べ物になります。
よくあるのが、「野菜スープなら健康的」と考えて、人用に作った野菜スープを薄めて与えるケースです。薄めても塩分はゼロになりませんし、タマネギが入っていれば問題は残ります。
状況:食欲が落ちた犬のために、家族の味噌汁や野菜スープをお湯で薄めて、ドライフードにかけていた。
原因:お湯で薄めても、汁に溶けた塩分そのものはなくなりません。さらに、タマネギやネギを煮た汁は、環境省の資料で「与えてはいけない」とされています。
対策:スープを使いたいときは、犬用の鍋で味付けなしの食材だけを茹でて作ります。食欲が落ちている状態が続くときは、汁の工夫より先に獣医師に相談しましょう。
犬用のスープを作るときの具体的な手順や、使える野菜・避けたい野菜はこちらでまとめています。

ジャーキー・ふりかけなどのおやつは「表示」と「量」で管理する
おやつの塩分は、パッケージの表示と与える量の2つで管理するのが基本です。環境省のガイドラインでは、ジャーキー、ガム、ボーロ・ビスケットなどは「間食」に分類され、1日に必要なエネルギー量の20%以内を目安にして、与えた分だけ主要な食事の量も減らすよう示されています。
なぜ量の管理が大事かというと、塩分の数値がパッケージに書かれていないおやつも多いからです。数値で塩分を比べられない以上、確実にできるのは「与える量を決めておくこと」です。エネルギー量の20%以内という目安を守ることが、結果として塩分の上乗せを抑えることにもつながります。
見落としやすいのが、ふりかけタイプのトッピングです。毎食少しずつかけるものは、おやつとしてカウントしていない飼い主さんが多く、量の管理から漏れがちです。魚の乾物を使ったふりかけなどは、原材料にかつおぶしやしらすが入っていることもあります。
パッケージでは、表示区分が「間食」か「その他の目的食(一般食など)」かを確認し、原材料欄で食塩や醤油などの調味料の有無を見ておきましょう。人用のおつまみジャーキーは、犬用として作られていないので与えないのが原則です。
チーズを使いたいときは犬用を選ぶ
チーズは犬が喜びやすい食べ物のひとつですが、使うなら人用ではなく犬用を選びましょう。環境省のガイドラインでも、塩分摂取が過剰になることを踏まえて、チーズ等を与える際は犬猫専用のものを与えましょう、と書かれています。
理由は、人用のプロセスチーズは10gあたりの食塩量が0.28gと、体重5kgの犬の1日の目安0.18gを上回るからです。チーズは製造の過程で塩を使う食品で、人の食べ物としては標準的な塩分でも、犬には多すぎます。
やりがちなのは、「犬用チーズ」と「人用チーズ」の違いを意識せず、冷蔵庫にあるスライスチーズやベビーチーズをそのまま使ってしまうことです。見た目が似ているので、家族の誰かが与えてしまうこともあります。
犬用のチーズおやつを選ぶときは、表示区分(間食かどうか)と原材料、与える量の目安を確認しましょう。犬用だからといって量の制限がなくなるわけではないので、ほかのおやつと合わせて、1日に必要なエネルギー量の20%以内に収めるのが基本です。
子犬・シニア・持病のある子で変わる犬の塩分の考え方
子犬:成長期の基準が高い=「足すべき」ではない
子犬の場合、AAFCOの基準ではナトリウムの最小値が成長期・繁殖期で乾物量あたり0.3%と、成犬維持期の0.08%より高く設定されています。成長のために必要な量が多いということですが、これは「子犬には塩を足しましょう」という意味ではありません。
理由は、成長期用や全年齢対応の総合栄養食が、この成長期の基準を満たすように作られているからです。子犬用の総合栄養食を給餌量表どおりに与えていれば、塩分についても必要な量はまかなわれます。
子犬の時期にありがちなのは、食べムラを心配して、ドライフードに人の食べ物を混ぜてしまうことです。また子犬は好奇心が強く、床に落ちた食べ物や、手の届く場所にある調味料、手作り粘土などを口にしやすい時期でもあります。体が小さいぶん、体重あたりの塩の量は大きくなりやすいので、誤食対策は成犬以上に大切です。
コツは、子犬用の総合栄養食を基本にして、人の食べ物の味を覚えさせないことです。早い時期から人の食べ物を与えると、それを欲しがる習慣がつきやすくなります。食卓の高さや、ゴミ箱のふたなど、誤食を防ぐ環境づくりも一緒に整えておきましょう。
子犬:塩は足さない。成長期用の総合栄養食で必要量はまかなえる。誤食対策を最優先に。
シニア犬:飲む水の量が減っていないかを見る。水と塩分はセットで考える。
持病のある犬:塩分の調整は自己判断せず、獣医師の指示に従う。
アウトドア・旅行:海水や塩を含むものに注意。飲み水は必ず持参する。
シニア犬:水を飲む量が減ると塩の影響を受けやすい
シニア犬の塩分で気をつけたいのは、塩分の量そのものより、水を飲む量が減っていないかです。環境省のガイドラインでは、犬の体に占める水の割合は60〜80%とされ、体に必要な水分のほとんど(90〜95%)は飲み水とフードから摂っていると説明されています。
なぜ水が大事かというと、前の章で説明したとおり、体は余分なナトリウムを尿として出すために水を使うからです。年齢とともに水を飲みに行く回数が減ったり、水入れまで移動するのが億劫になったりすると、同じ塩分でも体の中で薄まりにくくなります。また、腎臓に問題を抱える犬は、すでに血圧が高いことが多く、高齢の動物では飼い主が気づいていない場合もあるとされています。
よくあるのは、ドライフード中心の食事なのに、水入れが寝床から離れた場所にひとつだけ、という環境です。環境省の資料でも、ドライフードは水分含有量が少ないため、与えるときは新鮮な水をフードのそばに置いておくよう書かれています。
水入れを複数の場所に置く、食事のそばに必ず水を置くといった工夫が効果的です。水を飲む量がいつもと違うと感じたら、獣医師に相談するきっかけにしてください。シニア犬の水分の考え方はこちらで詳しく解説しています。

心臓・腎臓に持病がある子:判断は獣医師と一緒に
心臓や腎臓の病気があると診断されている犬では、塩分の管理が食事の大事なテーマになることがあります。ただし、どの程度の塩分が適切かは病気の種類や状態によって変わるため、飼い主さんが自己判断で調整するのではなく、獣医師の指示に従うのが基本です。
理由は、塩分を減らすことだけが目的になると、ほかの栄養のバランスが崩れたり、食べる量そのものが落ちたりする可能性があるからです。病気の状態に合わせた食事は、検査結果などを見ながら調整していく必要があります。環境省のガイドラインでも、療法食は疾病の治療などの際に栄養学的なサポートをするフードで、使用は獣医師の管理の下に行われる、とされています。
やりがちなのは、インターネットの情報を参考に、「減塩」をうたう一般のフードや手作りごはんに自己判断で切り替えてしまうことです。病気の犬にとって何が合っているかは、個々の状態を診ている獣医師でないと判断できません。
持病のある犬では、おやつや人の食べ物も含めて、普段与えているものをすべて獣医師に伝えるのが大切です。小さなおやつやトッピングも、食事管理の一部として相談しましょう。
暑い季節・散歩後・旅行先:水が手に入らない状況に注意
塩分のリスクが高まりやすいのは、実は家の中よりも外出先です。海辺での散歩や海遊び、キャンプやバーベキュー、旅行先での食事など、普段と違う環境では、塩を含むものを口にする機会が増え、しかも飲み水がすぐに手に入らないことがあります。
なぜ外出先が要注意かというと、塩分のリスクは「塩の量」と「水を飲めるかどうか」の組み合わせで決まるからです。AKCの解説でも、新鮮な水がない、あるいは水を飲みに行けない状況ではリスクが高くなるとされています。暑い日や運動のあとは体の水分も失われやすく、条件が重なります。
具体的には、海でのどが渇いた犬が海水を飲んでしまう、バーベキューで落ちた味付き肉を拾い食いする、旅先の食卓で周りの人からおすそ分けをもらう、といった場面が考えられます。周りの人に悪気がなくても、塩分の上乗せは起こります。
出かけるときは、犬用の飲み水と器を持参し、こまめに水を飲ませるのが基本です。人が集まる場では「人の食べ物はあげないでください」とひと声かけておくと、思わぬおすそ分けを防げます。
まとめ
犬にとって塩分は、体液のバランスや筋肉・神経の働きを支える必要な栄養素です。そのためAAFCOの栄養基準にはナトリウムと塩素の最小値があり、総合栄養食はそれを満たすように作られています。だからこそ、飼い主さんが意識すべきなのは「減らす工夫を足す」ことではなく、「人の食べ物で上乗せしない」ことです。環境省のガイドラインが示す体重5kgの犬の1日の目安0.18gに対し、ロースハムは10gで0.25g、しらす干しは10gで0.54gと、人の食べ物は少量でも目安を上回ります。
塩分の摂りすぎには、毎日の積み重ねで心臓や腎臓に負担をかける問題と、一度に大量の塩を摂って起こる塩中毒の問題があります。塩中毒の原因は食べ物だけでなく、海水や手作り粘土、岩塩なども挙げられています。嘔吐やふらつき、水のがぶ飲みなどの様子が見られたら、何をどれくらい食べたかを把握して、早めにかかりつけの獣医師に連絡してください。子犬は誤食対策、シニア犬は飲水量、持病のある犬は獣医師との相談が、それぞれの大事なポイントです。
最初の一歩としておすすめなのは、家族全員で「人の食べ物は与えない」「犬の分は味付け前に取り分ける」の2つのルールを共有することです。そのうえで、水入れが空になっていないか、犬の届く場所に調味料や塩を含むものが置かれていないかを、今日一度だけ見回してみてください。それだけで、塩分の上乗せの多くは防げます。
※最新情報は環境省・AAFCOなどの公式サイトでご確認ください。

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