「穀物は犬の体に合わないって聞いたけど、グレインフリーに変えたほうがいいの?」「グレインフリーは高いけれど、そのぶん体にやさしいのでは?」。ペットショップの棚でもネット通販でも「穀物不使用」「グレインフリー」の文字がよく目立つので、今のフードのままでいいのか迷う飼い主は少なくありません。
先に結論をお伝えします。グレインフリーは「穀物を使っていない」という原材料の特徴を示す言葉で、フードの良し悪しや栄養バランスを示す区分ではありません。日本のペットフードの表示区分に「グレインフリー」というカテゴリーはなく、フード選びの土台になるのはあくまで「総合栄養食」かどうかです。さらに、穀物の代わりに豆類を多く使うフードについては、海外で心臓の病気との関連が研究されている最中でもあります。
この記事では、グレインフリーの意味と表示ルール、犬が穀物を消化できるしくみ、穀物と代替炭水化物源の栄養成分の違い、食物アレルギーとの関係、豆類と拡張型心筋症(DCM)の研究の現状、そしてパッケージのどこを見て選べばよいかを、公的機関・獣医師団体・学術研究などの一次情報をもとに順番に解説します。
・「グレインフリー」が公的な表示区分ではない理由と、先に確認すべき「総合栄養食」表示
・犬が加熱加工された穀物を消化できるしくみ(アミラーゼ遺伝子の研究)
・穀物を抜いた代わりに入る豆類・いも類の栄養成分と、豆類とDCMの研究の現状
・食物アレルギーが心配なときにグレインフリーだけで解決しようとしない理由
グレインフリーのドッグフードとは?「穀物不使用」の中身と公的な定義がない事情

穀物の代わりに、いもや豆が炭水化物源になっている
グレインフリーのドッグフードとは、小麦・とうもろこし・米・大麦などの穀物を原材料に使っていないフードを指す言葉として使われています。ここで押さえておきたいのは、「穀物を抜いた=炭水化物を抜いた」ではないという点です。多くの製品では、穀物の代わりにさつまいもやえんどう豆などを炭水化物源として使っています。
なぜ代わりの炭水化物源が必要なのかというと、ドライフードは粒の形を作って保つためにでんぷん質を必要とするうえ、エネルギー源としても炭水化物を活用しているからです。つまり、穀物を外しても「でんぷん質の原料」は別の形で入ってきます。
やりがちな誤解は、「グレインフリー=低炭水化物・高たんぱくの肉中心フード」と思い込んでしまうことです。実際には、原材料欄を見るとえんどう豆・ひよこ豆・レンズ豆・じゃがいも・さつまいもなどが上位に並んでいる製品もあります。肉が多いかどうかは「グレインフリー」の表記からは読み取れません。
コツは、表の大きなキャッチコピーではなく、裏面の原材料欄で「穀物の代わりに何が入っているか」を確認することです。豆類なのか、いも類なのか、それが原材料欄の何番目にあるのかを見るだけで、そのフードの性格はかなり見えてきます(この「何番目」が意味を持つ理由は後の章で説明します)。
日本の表示区分は4分類だけで、グレインフリーは入っていない
結論から言うと、「グレインフリー」には公的な表示基準がありません。ペットフード公正取引協議会の表示制度で定められている目的別の区分は「総合栄養食」「間食」「療法食」「その他の目的食」の4分類で、グレインフリーを対象とした公的なカテゴリーは定められていません。
この4分類は「そのフードを何のために与えるか」を示すもので、たとえば総合栄養食はそのフードと水だけで必要な栄養をまかなえるように作られた区分です。一方、グレインフリーは「どんな原料を使っていないか」という原材料の特徴を示すだけの言葉です。軸がまったく違うので、グレインフリーの総合栄養食もあれば、グレインフリーのおやつ(間食)もあります。
ありがちな失敗は、「グレインフリー」と大きく書かれたトッピング用のフードやおやつを、主食のつもりで与え続けてしまうケースです。パッケージの印象が主食用フードとよく似ていても、区分が総合栄養食でなければ、それだけで栄養をまかなう前提では作られていません。
確認のコツは、パッケージの「目的」の表示を最初に探すことです。「総合栄養食」の文字があるかどうかを確かめてから、グレインフリーかどうかを見る。この順番を守るだけで、主食選びの大きな失敗はほぼ防げます。
グレインフリー=小麦・とうもろこし・米・大麦などの穀物を原材料に使っていないことを示す言葉。公的な表示区分ではなく、基準も定められていない。
総合栄養食=そのフードと水だけで必要な栄養をまかなえるよう作られた目的別の表示区分。ペットフード公正取引協議会の表示制度にある4分類(総合栄養食・間食・療法食・その他の目的食)の一つ。
グルテンフリーとは「抜いているもの」が違う
グレインフリーとよく混同されるのがグルテンフリーです。グルテンは小麦などに含まれるたんぱく質の一種で、グルテンフリーは「グルテンを含む原料を使っていない」ことを示します。つまり、米やとうもろこしのようにグルテンを含まない穀物は、グルテンフリーのフードには使われていることがあります。
範囲の広さで言えば、穀物そのものを使わないグレインフリーのほうが対象は広く、グルテンフリーは小麦系の原料に絞った考え方です。どちらも公的な表示区分ではなく、原材料の特徴を示す言葉である点は共通しています。
よくある場面が、「小麦が合わないかもしれないから」とグレインフリーを選び、結果として米やとうもろこしまで外してしまうケースです。本当に避けたいものが小麦だけなのであれば、選択肢を必要以上に狭めていることになります。逆に「グルテンフリーだから穀物は入っていない」と思い込むのも誤りです。
避けたい原料がはっきりしている場合は、キャッチコピーではなく原材料欄にその原料名が書かれているかどうかで判断しましょう。何を避けるべきかがはっきりしない段階で原料を絞り込むよりも、まずは獣医師に相談して、避けるべきものを特定してもらうほうが近道です。
犬はそもそも穀物を消化できないのか
加熱加工されたでんぷんは、犬でも消化できる
「犬は穀物を消化できない」という説明を見かけることがありますが、ドッグフードの穀物については当てはまりません。獣医師監修の解説記事では、加熱や加工により消化性をアップすることで、犬も穀類を体内で消化することが可能になると説明されています。
理由は、でんぷんの状態の違いにあります。生の穀物に含まれるでんぷんは粒の構造がしっかり詰まっていて消化酵素が働きにくいのですが、水と熱を加えると構造がほどけて、酵素が作用しやすい状態になります。ご飯を炊くと柔らかく消化しやすくなるのと同じ理屈です。同じ解説では、ドッグフードの原材料に使われている穀類は炭水化物の消化性を考慮してきちんと加熱調理され、消化性が高められているので、犬に与えても問題ないとされています。
やりがちな失敗は、この話を「生の穀物をそのまま与えても大丈夫」と読み替えてしまうことです。手作りごはんで穀物を使う場合は、しっかり加熱して柔らかくするのが前提です。
見分け方のコツは、「穀物が入っているかどうか」ではなく「加熱加工された穀物かどうか」で考えることです。市販のドライフードは製造工程で加熱されているので、穀物が入っていること自体を過度に心配する必要はありません。詳しい解説は獣医師監修の解説記事で確認できます。
犬のアミラーゼ遺伝子はオオカミより多い
犬が穀物のでんぷんを消化できることは、遺伝学の研究からも裏付けられています。でんぷんを分解する膵臓アミラーゼの遺伝子(AMY2B)について、家畜化した犬はオオカミと比べてコピー数が大きく増えていることがわかっています。
学術論文によると、犬のAMY2Bのコピー数は犬種や個体によって4〜34個と幅広いのに対し、オオカミでは2〜8個にとどまり、60%のオオカミは2個しか持っていないと報告されています。遺伝子のコピー数が多いほど酵素を作る能力が高まると考えられており、犬は人と暮らすなかで、でんぷん質の多い食事に適応してきたと解釈されています。
ここで誤解しやすいのは、「だから穀物は多ければ多いほどいい」と逆方向に振り切ってしまうことです。研究が示しているのは「犬はでんぷんを利用する能力を持っている」ということで、フードの穀物量の正解を示したものではありません。また、コピー数には犬種や個体による幅があります。
実用的なポイントは、「オオカミの祖先だから穀物は不自然」という説明を見かけたら、それが現在の犬に当てはまるかを一歩立ち止まって考えることです。犬とオオカミは消化の面でも違う動物になっている、と押さえておくと、宣伝文句に振り回されにくくなります。
実は「穀物が悪い」という根拠は見当たらない
意外と知られていないのですが、グレインフリーが広まった背景は「穀物が犬に有害だと証明されたから」ではありません。ここまで見てきたように、加熱加工された穀物は犬でも消化でき、犬はでんぷんを利用する遺伝的な適応も持っています。穀物を含むこと自体を問題とする公的な基準も、日本の表示制度には見当たりません。
では、なぜこれほど広まったのか。一つには「原始的な食事に近い」「肉中心」というイメージの分かりやすさがあります。もう一つは、食物アレルギーへの不安です。ただ、後の章で詳しく触れるとおり、犬の食物アレルギーの原因は穀物に限らず、肉や魚などの動物性たんぱく質も含まれます。
よくある失敗は、「グレインフリーのほうが上位のフード」という印象だけで、今のフードで体調よく過ごしている犬のフードまで切り替えてしまうことです。フードを変えればそのぶん原材料の構成が変わり、お腹の調子が変わる可能性もあります。
考え方のコツは、グレインフリーを「選択肢の一つ」として捉えることです。穀物入りのフードが合わない理由がはっきりしている犬には意味がありますが、そうでない犬にとっては「必須のアップグレード」ではありません。今のフードで便や皮膚、体重の状態が安定しているなら、それ自体が大切な判断材料になります。
穀物を抜いたら何が入る?代替の炭水化物源を成分表で比べる

犬ごはんノート調べ:穀物といも・豆の栄養成分
グレインフリーのフードで穀物の代わりに使われやすい食材が、実際にどんな栄養成分を持っているのかを比べてみましょう。以下は文部科学省の日本食品標準成分表(八訂)増補2023年の値をもとに、犬ごはんノートが整理したものです。いずれも食品100gあたりの値です。
| 食品 | エネルギー | たんぱく質 | 脂質 | 炭水化物 |
|---|---|---|---|---|
| とうもろこし(玄穀・白色種) | 341kcal | 8.6g | 5.0g | 70.6g |
| 精白米(うるち米) | 342kcal | 6.1g | 0.9g | 77.6g |
| さつまいも(皮なし・蒸し) | 131kcal | 1.2g | 0.2g | 31.9g |
| えんどう(全粒・青えんどう・乾) | 310kcal | 21.7g | 2.3g | 60.4g |
この表から読み取れる結論は、「穀物を抜いても、炭水化物源が入れ替わるだけ」ということです。とうもろこしや精白米と同じように、えんどうの乾燥豆も炭水化物が主成分です。グレインフリーだから炭水化物がゼロになるわけではありません。
ただし、この表はあくまで食材そのものの値です。ドッグフードとして仕上がったときの栄養成分は、配合量や加工方法で変わります。実際のフードの成分は、パッケージの成分表示(保証成分値)で確認してください。
えんどう豆は炭水化物源でありながら、たんぱく質も多い
表でひときわ目を引くのが、えんどう(乾)のたんぱく質21.7gです。とうもろこしの8.6g、精白米の6.1gと比べて倍以上の値で、食物繊維総量も17.4gと、とうもろこしの9.0gを上回ります。豆類は「炭水化物源」と「植物性たんぱく源」を兼ねる食材だということがわかります。
これがフード選びで意味を持つのは、パッケージの「たんぱく質○%」という数値の見え方です。豆類を多く使うと、肉や魚を増やさなくても、フード全体のたんぱく質の値は上がります。つまり「高たんぱく」の表示が、必ずしも「肉がたっぷり」を意味するとは限りません。
やりがちな失敗は、成分表示のたんぱく質の数値だけを見て「肉が多い良いフード」と判断してしまうことです。たんぱく質がどこから来ているのかは、成分表示ではなく原材料欄を見ないとわかりません。
確認のコツは、成分表示のたんぱく質の数値と、原材料欄の上位に何が並んでいるかをセットで見ることです。肉や魚が先頭にあり、豆類がその後ろに控えている構成なのか、豆類が複数種類上位に並んでいる構成なのかで、同じたんぱく質の数値でも中身の印象は変わってきます。
さつまいもの数値が低く見えるのは水分を含んだ状態だから
表のさつまいもはエネルギー131kcal、炭水化物31.9gと、ほかの食材より低い値になっています。ただしこれは「さつまいもは低カロリーな炭水化物源」という意味ではありません。比較しているさつまいもは「蒸し」、つまり水分をたっぷり含んだ状態の値です。
とうもろこし(玄穀)、精白米、えんどう(乾)はいずれも乾いた状態の値なので、水分の分だけ数値が高く出ます。蒸したさつまいもは重さの多くを水分が占めるため、100gあたりに含まれるエネルギーや炭水化物は低く見えます。ドッグフードの原料として乾燥させた状態で比べれば、差は縮まります。
ありがちな勘違いは、手作りのトッピングで「さつまいもはヘルシーだから多めでいい」と考えてしまうことです。蒸したさつまいもでも炭水化物が主成分であることに変わりはなく、フードに上乗せすればそのぶんエネルギーは増えます。
比べるときのコツは、成分表の値を見るときに「生・乾・ゆで・蒸し」など、どの状態の値なのかを必ず確認することです。状態が違う数値を並べて「こっちが低い」と判断すると、結論を誤ります。トッピングで量を加えるときは、主食の量を調整する前提で考えましょう。

穀物を抜けば食物アレルギーは防げるのか
アレルギーの原因は穀物より「たんぱく質」も含めて幅広い
グレインフリーを選ぶ理由として多いのが「食物アレルギーが心配だから」ですが、穀物を抜けばアレルギーが防げるとは限りません。獣医師団体JBVPの飼い主向け解説では、食物アレルギーの原因となりうる成分として、蛋白(牛肉、鶏肉、豚肉、魚、馬肉、卵、大豆など)、炭水化物(小麦、トウモロコシ、オートミールなど)、着色料、味つけ、防腐剤のような添加物すべてが考えられると説明されています。
つまり、穀物はアレルギーの原因候補の一つにすぎません。肉や魚、卵といった動物性たんぱく質も原因になりえます。グレインフリーのフードでも、主原料が鶏肉や牛肉であれば、それらにアレルギーがある犬には合わないことになります。
よくある場面が、「アレルギーといえば穀物」という印象から、原因を確かめないままグレインフリーに切り替えるケースです。原因がたんぱく質側にあった場合、症状は変わらず、フード代だけが上がってしまいます。
考え方のコツは、「何を抜いたフードか」より「その犬が何に反応しているか」を先に考えることです。原因がわからないうちは、グレインフリーかどうかはアレルギー対策の判断材料になりません。原材料の種類が少なく、何が入っているかを把握しやすいフードかどうかのほうが、あとで原因を探すときの手がかりになります。
食物アレルギーが出やすい時期とサイン
同じ解説によると、食物アレルギーの発症は1歳齢未満から3歳齢までに集中し、ラブラドール・レトリーバー、コッカースパニエル、ゴールデン・レトリバー、ジャーマンシェパードなどに比較的多くみられるとされています。若い時期の犬の皮膚やお腹のトラブルでは、食事も確認の対象になるということです。
主なサインは皮膚のかゆみ、または下痢です。耳にかゆみが出ることも多く、再発する外耳炎では食事の検討も行われるとされています。かゆみは季節に関係なく続き、慢性的に徐々に悪化するのが特徴で、足先や内もも、わきの下、顔、胸の前側などに症状が出ることもあると説明されています。
見落としやすいのは、「季節の変わり目だから」「散歩で何かに触れたのかも」と、かゆみを食事と結びつけずに様子を見続けてしまうことです。季節を問わず続くかゆみや、繰り返す耳のトラブルは、食事との関係も含めて相談するきっかけになります。
日頃からできるのは、いつから・どこを・どのくらいかいているか、便の状態はどうか、そのとき何を食べていたかを記録しておくことです。フードの商品名や原材料欄の写真も残しておくと、獣医師に相談するときにそのまま役立ちます。
原因探しの除去食試験は、獣医師と進めるもの
食物アレルギーかどうかを確かめる方法として、獣医師のもとでは除去食試験が行われます。JBVPの解説では、一度も食べたことがない蛋白と炭水化物で作る低アレルギー食を用い、たとえば油や調味料を使わずに家庭内で炒めたラム肉とポテトの1対1の混合で、かゆみや病変が消失したならば食物アレルギーと考えられると説明されています。
観察期間は最大10週間とされ、その後に以前の食事を再開して1週間以内に症状が再発すれば、因果関係が証明されるという考え方です。ポイントは、「一度も食べたことがない」組み合わせを使うこと、そして「長い期間きちんと続けて確かめる」ことにあります。
ここから読み取れるのは、市販のグレインフリーフードに切り替えるだけでは除去食試験の代わりにならないということです。多くのフードは複数のたんぱく源や原料を使っているため、何に反応していたのかを特定できません。短期間で「効かなかった」と次々にフードを替えるのも、原因探しを難しくします。
除去食試験は食事の内容・期間・その間のおやつの扱いまで管理が必要な検査です。食事で症状を確かめたいときは、自己流で始めず、獣医師に相談して進め方を決めてもらいましょう。
状況:かゆみが続くので「穀物アレルギーかも」とグレインフリーに変更。改善しないので別のグレインフリーへ、さらに別の製品へ……と短期間で替え続ける。
原因:アレルギーの原因は穀物だけでなく、牛肉・鶏肉・魚・卵などのたんぱく質や添加物も考えられる。どのフードにも同じたんぱく源が入っていれば、何度替えても変わらない。
対策:フードを替える前に獣医師に相談し、原因を特定する手順(除去食試験など)を決めてもらう。これまで与えたフードの原材料欄を記録しておく。
心臓の病気(DCM)との関係で、今わかっていること
2018年に米国で出された注意喚起
グレインフリーを検討するうえで知っておきたいのが、犬の拡張型心筋症(DCM)との関連をめぐる研究です。拡張型心筋症は、心臓の筋肉が薄く伸びて血液を送り出す力が弱くなる病気です。米国のタフツ大学獣医学部の解説によると、2018年に米国FDA(食品医薬品局)が、犬種に特有ではない二次的なDCMと、グレインフリーまたは豆類(えんどう豆、レンズ豆、ひよこ豆、乾燥豆)を含む食事との潜在的な関連について注意喚起を出しました。
ここで大事なのは、注意喚起の対象が「遺伝的に起こりやすい犬種のDCM」とは別の形のDCMだったという点です。もともとDCMが起こりにくいとされる犬種でも報告があったことから、食事との関係が疑われるようになりました。
日本の飼い主がやりがちなのは、「海外の話だから関係ない」と聞き流すか、逆に「グレインフリーは心臓に悪い」と断定してしまうかの両極端です。どちらも、研究が示している内容とはずれています。
押さえておきたいのは、「どんな食事が、どの程度疑われているのか」を正確に知ることです。次の項目で見るとおり、焦点は「穀物がないこと」から少しずれてきています。ニュースやSNSで見かけた断片的な情報だけで判断しないことが、この話題では何より大切です。
焦点は「穀物がないこと」より「豆類の多さ」
タフツ大学の解説では、食事関連のDCMは豆類(えんどう豆、レンズ豆、ひよこ豆、乾燥豆)を多く含む食事と関連しているようだとされています。そしてこれは、グレインフリーの食事と穀物を含む食事の両方を含む、なぜならどちらも豆類を多く含むことがあるから、と説明されています。
さらに同じ解説では、この病気は穀物の不足や、タウリンなどの栄養素の欠乏によって起こるものではないようだと述べています。つまり「穀物を抜いたから心臓に悪い」という単純な話ではなく、穀物の代わりに何が、どれだけ入っているかに注目が移っているということです。
ここで起こりがちな誤解が、「穀物入りのフードなら安心」という判断です。穀物を含むフードでも豆類を多く使っている製品はあるので、穀物の有無だけで区別しても意味がありません。
実用的な見方は、前の章で紹介した「原材料欄で豆類がどの位置に、何種類並んでいるか」をチェックすることです。えんどう豆・レンズ豆・ひよこ豆などが上位に複数並んでいれば、豆類の比率が高い可能性があります。グレインフリーかどうかに関係なく、この視点を持っておくと判断しやすくなります。
食事関連のDCMで研究の焦点になっているのは、「穀物が入っていないこと」ではなく「豆類(えんどう豆・レンズ豆・ひよこ豆など)を多く含むこと」です。穀物入りのフードでも豆類が多ければ同じ視点で見る必要があります。因果関係はまだ証明されておらず、研究は続いています。
因果関係は証明されておらず、研究は続いている
現時点で、グレインフリーや豆類を多く含むフードとDCMとの直接の因果関係は証明されていません。FDAは、有害事象の報告数はそれだけでは因果関係を確立するのに十分なデータにはならないとし、食事とDCMの潜在的な関連は複数の要因が関わりうる複雑な科学的問題だと説明していました。また、意味のある新しい科学的知見が得られるまでは、追加の公開更新は行わない方針とされています。
一方で、研究機関による原因究明は現在も続いています。タフツ大学の解説も、食事関連DCMの研究の進み具合を継続して発信している一例です。「証明されていない」は「関係がないと確認された」という意味ではなく、「まだ結論が出ていない」という意味です。
やりがちな失敗は、「因果関係は証明されていない」という一文だけを取り出して、完全に問題ないと受け止めてしまうことです。逆に、注意喚起の見出しだけを見て、今与えているフードを慌てて全部捨ててしまうのも、落ち着いた対応とは言えません。
現実的な向き合い方は、「疑いがある段階の情報」として把握し、豆類を多く使うフードを長く与えている場合は、定期健診の機会に獣医師へ伝えておくことです。結論が出ていないからこそ、選べる材料があるなら、豆類が上位に並ばない構成のフードを選ぶという考え方も取れます。
気をつけたい体のサイン
タフツ大学の解説では、食事関連DCMの症状として、咳、呼吸困難、脱力感、失神が起こりうるとされています。一方で、症状が出ない犬や、心雑音がない犬もいると説明されています。つまり、見た目で元気そうでも進んでいる場合があるということです。
また、食事を変更することで、特に早期に発見された場合は食事関連DCMが徐々に改善する可能性があるとされる一方、潜在的に致死的な病気であることに変わりはないとされています。早く気づけるかどうかが、その後に影響しうる病気だということです。
見落としやすいのは、咳や疲れやすさを「年齢のせい」「暑さのせい」で片付けてしまうことです。特に散歩の途中で座り込む、以前より呼吸が荒い、といった変化は、日常の中では気づきにくいものです。
咳が続く、呼吸が苦しそう、ふらつく・倒れるなど、いつもと違う様子があるときは、早めに獣医師に相談してください。その際、今与えているフードの商品名と原材料欄、与えている期間を伝えると、診察の参考になります。
パッケージのどこを見る?グレインフリーのドッグフードの選び方
最初に確認するのは「総合栄養食」の表示
グレインフリーのドッグフードを主食として選ぶなら、最初に確認するのは「総合栄養食」の表示です。これは、ペットフード公正取引協議会の表示制度にある目的別の区分で、そのフードと水だけで必要な栄養をまかなえるように作られていることを示します。
先に説明したとおり、グレインフリーは原材料の特徴を示す言葉で、栄養バランスについては何も保証していません。穀物を使っているかどうかより、「主食として栄養がそろうように設計されているか」のほうが、毎日のごはんとしては重要です。
よくあるのが、見た目や価格帯がほかの主食フードと似ている「一般食」「副食」などの表示の製品を、主食と思って与え続けるケースです。これらは「その他の目的食」にあたり、総合栄養食と組み合わせて与える前提の製品です。
確認のコツは、パッケージの裏面や側面にある「目的」の欄を探すことです。「総合栄養食」と書かれていて、対象の年齢(成長期・維持期など)がその犬に合っているかまで見ておくと安心です。表示の読み方全般は、ペットフード公正取引協議会の表示の解説ページが参考になります。
原材料欄は「使用量の多い順」で読む
原材料欄の並び順には意味があります。公正競争規約に基づく必要表示事項では、添加物以外の原材料と添加物に分け、添加物以外の原材料を使用量の多い順に記載し、次に添加物を記載するとされています。
つまり、原材料欄の先頭にあるものほど多く使われているということです。グレインフリーのフードなら、先頭に肉や魚が来ているのか、えんどう豆やじゃがいもが来ているのかで、フードの主体がどこにあるかがわかります。前の章で触れた「豆類がどの位置に何種類あるか」も、このルールがあるから読み取れるのです。
やりがちな見落としは、同じ豆でも「えんどう豆」「えんどう豆たんぱく」「えんどう豆繊維」のように分けて書かれている場合です。一つひとつは中ほどに並んでいても、合計すると豆由来の原料が多くなっていることがあります。
読むときのコツは、上から5つ程度の原材料に注目し、そのうち肉・魚が何種類、豆・いもが何種類かを数えてみることです。同じ系統の原料が分けて書かれていないかもあわせて確認しましょう。

「無添加」の文字は、何が無添加かとセットで読む
グレインフリーのフードには「無添加」の表示が並んでいることもよくあります。ただし、「無添加」は何も入っていないという意味ではありません。ペットフード公正取引協議会の解説では、無添加である原材料名等が明確に併記され、かつ一定の基準を満たす場合に限り表示できるとされています。
具体的には、何が無添加なのかがはっきり書かれ、製造工程全体でその原材料や添加物を一切使っていないことが確認できる場合に限られる、という考え方です。「着色料無添加」なら着色料を使っていないという意味で、ほかの添加物まで使っていないとは限りません。
よくある誤解は、「グレインフリー」「無添加」と並んでいると、どちらも「体にやさしい総合的な品質保証」のように感じてしまうことです。実際には、どちらも「特定の何かを使っていない」ことを示す表示で、フード全体の栄養バランスを示すものではありません。
読み方のコツは、「無添加」の近くに「何が」無添加なのかが書かれているかを探すことです。書かれている対象だけを事実として受け取り、それ以上の意味を読み込まないようにしましょう。

切り替えるときは少しずつ混ぜて様子を見る
グレインフリーのフードに切り替えると決めたら、一度に全部を入れ替えず、今のフードに少しずつ混ぜながら移行するのが基本です。グレインフリーのフードは炭水化物源が穀物からいも・豆に変わるなど原材料の構成が大きく変わるため、急に替えると便の状態が変わることがあります。
理由は、腸内環境や消化の働きが、それまで食べていたものに慣れているからです。原料が変われば、消化のされ方も変わります。少しずつ比率を上げていけば、体がゆっくり慣れる時間を作れます。
やりがちな失敗は、「フードの袋がなくなったから」と、翌日からいきなり新しいフードだけにしてしまうことです。軟便になっても、それがフードの相性なのか、急に替えたせいなのかが区別できなくなります。
切り替えの進め方や日数の目安は、新しいフードのパッケージや公式サイトに書かれていることが多いので、まずはそこを確認しましょう。給与量も製品ごとにエネルギー量が違うため、前のフードと同じ量をそのまま与えず、パッケージの給餌量表で確認し直します。
グレインフリーが合う犬、見直したい犬はどんな子?
今のフードで調子がいい犬は、無理に替えなくていい
穀物入りの総合栄養食で、便の状態も皮膚も体重も安定している犬であれば、グレインフリーに替える必要は特にありません。ここまで見てきたように、加熱加工された穀物は犬でも消化でき、グレインフリーであること自体が栄養面の上位を意味するわけでもないからです。
むしろ切り替えには、原材料の構成が変わることでお腹の調子が崩れる可能性や、豆類の比率が高い製品に移ってしまう可能性もあります。調子がよい今の状態は、それ自体が「この子に合っている」という大事な情報です。
よくあるのは、口コミや周りの飼い主の話を聞いて「うちも替えないと遅れている気がする」と感じてしまうことです。フード選びに流行はありますが、犬の体に必要なのは流行よりも安定した食事です。
見直すタイミングの目安は、ライフステージが変わるとき(子犬から成犬、成犬からシニア)や、体重・便・皮膚に変化があったときです。変化がなければ、今のフードを続けながら、健康診断の機会に食事のことも相談する、というくらいで十分です。

獣医師から特定の穀物を避けるよう言われた犬
グレインフリーのフードが役立つのは、獣医師の診察を受けて、小麦やとうもろこしなど特定の穀物を避けたほうがよいとわかった犬です。この場合、グレインフリーのフードは避けたい原料を含まない選択肢の一つになります。
ただし、避けるべきなのが「穀物全部」なのか「特定の穀物」なのかで、選ぶ範囲は変わります。たとえば小麦だけを避ければよいのであれば、米を使ったフードも選択肢に入ります。グレインフリーに限定すると、かえって豆類が多い製品ばかりが候補に残ることもあります。
やりがちな失敗は、「穀物を避けて」と言われたことを理由に、たんぱく源や添加物など、ほかの原材料の確認をやめてしまうことです。アレルギーの原因は複数ありうるため、穀物を抜いたフードでも、ほかの原料に反応する可能性は残ります。
コツは、獣医師に「避けるべき原料」と「避けなくてよい原料」を具体的に聞き、それをメモしてからフードを探すことです。治療のために食事管理が必要な場合は、療法食も含めて獣医師の指導のもとで食事を決めていきましょう。
豆類が上位に並ぶフードを長く与えている犬
すでにグレインフリーのフードを長く与えていて、原材料欄の上位にえんどう豆・レンズ豆・ひよこ豆などが複数並んでいる場合は、一度フードの構成を見直してみる価値があります。食事関連のDCMの研究で注目されているのが、豆類を多く含む食事だからです。
繰り返しになりますが、因果関係はまだ証明されていません。ただ、今の段階でも「疑いがある」情報として把握し、健診の際に伝えておくことはできます。症状が出ない場合もあるとされているので、見た目が元気でも、心臓の状態を確認してもらう機会を持つ意味はあります。
見直すときに慌てて一度に全部を切り替えると、今度はお腹の調子を崩すことにつながります。フードを替えるなら、前の章の手順どおり、少しずつ混ぜて移行してください。
判断に迷うときは、今のフードのパッケージ(原材料欄と成分表示)を写真に撮って、獣医師に見てもらうのが確実です。心臓の検査を受けるかどうかも含め、その犬の年齢や体の状態に合わせて相談しましょう。
状況:成分表示のたんぱく質の数値が高く、「穀物不使用」と書かれたフードを「肉が多い良いフード」と判断し、原材料欄を確認しないまま長く与え続ける。
原因:えんどう豆などの豆類はたんぱく質を多く含むため、豆類が多くてもたんぱく質の数値は高く出る。豆類が「えんどう豆」「えんどう豆たんぱく」などに分かれて書かれ、多さに気づきにくいこともある。
対策:原材料欄の上位を読み、豆類の位置と種類数を確認する。長く与えている場合は、健診のときにフードの原材料欄を獣医師に見せて相談する。
迷ったときは「フードの情報を持って」相談する
グレインフリーにするかどうか迷ったら、ひとりで結論を出そうとせず、かかりつけの獣医師に相談するのがいちばん確実です。食事の向き不向きは、年齢、体重、持病、これまでの体調の経過によって変わるからです。
相談を実りあるものにするコツは、情報を持っていくことです。今のフードの商品名、原材料欄と成分表示の写真、1日に与えている量、おやつやトッピングの内容、気になっている症状とその期間。これがそろっていると、獣医師も具体的な判断がしやすくなります。
やりがちなのは、「グレインフリーってどうですか?」と一般論だけを聞いてしまうことです。答えはフードの中身とその犬の状態によって変わるため、一般論の質問には一般論の答えしか返ってきません。
「この子に、このフードを続けて大丈夫か」という形で相談すれば、グレインフリーかどうかにとらわれず、その子に合った食事の方向性が見えてきます。フード選びは、飼い主と獣医師が同じ情報を見ながら決めていくのが理想です。
まとめ
グレインフリーのドッグフードは、「穀物が合わない理由がはっきりしている犬」にとっては意味のある選択肢です。一方で、穀物そのものが犬に有害だという根拠は見当たらず、加熱加工された穀物は犬でも消化できます。犬はオオカミよりでんぷん分解酵素の遺伝子コピー数が多いことも研究で示されています。今のフードで体調が安定しているなら、無理に切り替える必要はありません。
選ぶときの順番は、まず「総合栄養食」の表示、次に原材料欄の上位に何が並んでいるかです。穀物の代わりに入るえんどう豆などの豆類は、たんぱく質も多く含むため、成分表示の数値だけでは中身がわかりません。豆類を多く含む食事と心臓の病気(DCM)との関係は研究が続いている段階なので、豆類が上位に複数並ぶフードを長く与えている場合は、健診の機会に獣医師へ伝えておくと安心です。
最初の一歩として、今与えているフードのパッケージを手に取り、「目的」欄と原材料欄の上から5つを確認してみてください。かゆみやお腹の不調が気になって食事を変えたいときは、フードの原材料欄の写真を持って獣医師に相談し、避けるべき原料を特定してもらってから選ぶのが近道です。
※最新情報は公式サイトでご確認ください。

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